線虫でがん検査、早期発見の力に HIROTSUバイオサイエンス 広津崇亮社長に聞く

10-18 作者admin

高校時代にバイオテクノロジーに興味を持ち、大学で線虫の研究をはじめた。「がん医療への意識を変えていきたい」という

厚生労働省の人口動態統計(令和4年)によると日本人の死因1位は悪性新生物(がん)。早期発見が重要だが、がん検診受診率は5割未満と低い。HIROTSUバイオサイエンス(東京都千代田区)では、この社会課題に挑むため、体長約1ミリの生物「線虫」の嗅覚と人の尿を活用したがん検査「N―NOSE(エヌノーズ)」を実用化。簡便・精密・安価という特徴を備え、がん検診の裾野を広げる1次スクリーニングとしての可能性に注目が集まっている。線虫研究者でもある広津崇亮社長に、開発への思いとがん検査の未来像を聞いた。

嗅覚、犬の1.5倍

――線虫をがん検査に使う発想の原点とは

「線虫の嗅覚に注目したのは大学院時代。線虫は犬の1・5倍の嗅覚受容体遺伝子を持ち、においを高精度に検知します。がん患者の尿のにおいは健康な人と異なるという研究結果を前提に、線虫はがん患者の尿に集まり、健康な人の尿から離れる特性を突き止めました。線虫は飼育コストも低く、安価な検査が実現できる。発見を基礎研究に終わらせず、がんの早期発見に役立てたいと考えました」

――「N―NOSE」とはどのような商品か

「医療機関でも自宅でも検査できます。自宅の場合はウェブサイトで検査キット(定期検査コースで1回あたり1万5800円、1回検査コースは1万6800円)を購入し、尿を提出すると4~6週間で、全身のがんリスクについての結果を送付します。リスクが分かるがん種は胃や食道など15種ですが、今年度内に小児がんを含め24種に拡大予定。がん検査の入り口のような存在で、リスクが判明した場合は病院での腫瘍マーカーや5大がん検診、組織診断といった精密検査が必要となります。適切な医療につなげていく相談窓口も設けています」

――がん種の特定はできないのか

「『N―NOSE plus(プラス)』で膵臓(すいぞう)と肝臓のがんは個別に早期発見をサポートできるようになりました。がん種特定は創業からの目標で、そのほかのがん種も実用化に向けて取り組んでいます」

精度示す陽性的中率

――精度への関心は高い

「精度を表す指標の一つに、ある検査で陽性と指摘された人が実際にがんと診断された割合の陽性的中率があります。N―NOSEの場合、2次検査の精度や有病率を正しく考慮しないと数値が大きく変動する解釈が難しい指標です。今年9月、日本核医学会PET核医学分科会PETがん検診ワーキンググループが、100を超える病院のデータを解析し、N―NOSEの陽性的中率を11・7%と示しました。国立がん研究センターの資料を元に算出すると、5大がん検診のうち乳がんは4・8%、大腸がんは3・1%で既存のがん検査を上回る精度を証明する結果となりました」

――「N―NOSE」の役割は

「100%といえる検査は存在しません。各検査の利点を生かして補完し合い、早期発見することが重要です。がん検診受診率の低さには費用や時間など多様な背景が指摘されています。自治体の住民検診は年齢条件もあり、人間ドックなど任意型検診は自己負担額が高くなります。手軽なN―NOSEはがんの1次スクリーニング。健康と向き合う行動変容のきっかけになるはずです」

――線虫がん検査の未来とは

「研究者としての感覚ですが、従来技術の発展形でのがん克服は困難かもしれません。さまざまながん治療がありますが、多くの人の健康を守るためにはやはり早期発見がカギ。そのためには発想の転換が必要で、生物の力を使ったN―NOSEに可能性があります。AI(人工知能)活用による精度向上、ベトナムをはじめとする海外展開と合わせ、がんという人類の課題に貢献していきたいと考えています」

広津崇亮

ひろつ・たかあき 昭和47年、山口県生まれ。理学博士。東京大学理学部卒、同大大学院理学系研究科修士課程修了。サントリー勤務を経て、同博士課程で線虫の嗅覚を研究。平成12年、「線虫の匂いに対する嗜好(しこう)性」についての論文が英科学誌『ネイチャー』に掲載された。同課程修了後、九州大学大学院理学研究院助教などを歴任し、28年にHIROTSUバイオサイエンスを設立した。

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