背面の自然石残し、迫力の肉厚彫り 大阪・四天王寺地蔵石仏

07-27 作者admin

四天王寺の地蔵石仏

大阪・四天王寺は多くの人々が詣り、都会の喧噪から遁(のが)れてひととき安らぎが得られる境内になっています。地蔵山と呼ばれる一画は本坊に通じる中之門から真っ直ぐ、四天王寺五重塔伽藍(がらん)の北西に位置し、地蔵石仏が集められています。

地蔵堂内には鎌倉時代の石仏二基がまつられています。ひとつは石造地蔵菩薩立像です。総高約173センチ、幅約75センチの大きな和泉砂岩製石材の背面を自然石のまま残して大きな舟形光背を造り出し、石材の持つ造形を生かした迫力のある石仏です。

像高約135センチの堂々とした地蔵菩薩立像は、丸彫りに近い厚肉彫りで造像しています。頭光背を薄肉彫りの宝珠光として彫りだし、その中心に面相を配し、静かで柔和に微笑む顔ながら、剛健で力強い充実感に満ちた表情とする肉付けが感じられます。体躯の肩張りから豊かな肉付きが威厳を保ちます。右手に握りしめた錫杖(しゃくじょう)、左手の緩やかな五指に宝珠を持ち、胸中に添えられています。錫杖の輪は心葉形に造り、輪が内側にまわって反転し蕨手形とし、内輪の間に塔婆形の細工が見られます。衲衣(のうえ)紋は重厚な立体感溢れる技巧が見られ、彫刻を見るようです。足指の劣化が進んでいますが、蓮華(れんげ)座に踏ん張る五指の素足が見られ、写実的表現の細工です。元の蓮華座には覆輪付蓮弁が陽刻され、肉厚のある七弁の反りが見事でした。

立像の左右には「悪趣往来結縁法界平等利」「正和六(1317)年□…」の刻銘が見られます。この願文にある「悪趣」とは、現世で悪事を行った結果、趣かなければならない苦しみの世界です。衆生が業によって死後に赴く境涯であり、地獄、餓鬼、畜生、人間、天上の五趣(ごしゅ)、五道ともいいます。往来する人々が結縁し、仏法の利益を得て、苦しむことがあっても地蔵菩薩の救済を得られて救われることを祈願して造立されました。半端ではないほど涎掛けが重ねられ、信仰とはいえ石造品の劣化は免れ難く、雨水のため蓮華座剝離(はくり)の原因となってしまいました。 (地域歴史民俗考古研究所所長 辻尾榮市)

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