【米国株:銘柄発掘】情報技術サービス:法人向けではDXソリューションが主戦場

10-18 作者島野 敬之

ITサービスを提供する5銘柄を発掘

グローバル産業分類標準(GICS)は11のセクターに分かれる

グローバル産業分類標準(GICS)は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスとMSCIという世界を代表する指数の開発・運用会社が共同で開発した産業分類です。S&P500はこの分類に準拠し、情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分かれています。

GICSには11セクター、25の産業グループ、74の産業、163の産業サブグループがあります。例えばITセクターにはソフトウエア&サービス、ハードウエア&機器、半導体&半導体製造装置という産業グループがあるため、アップル[AAPL]もマイクロソフト[MSFT]もエヌビディア[NVDA]もシスコ・システムズ[CSCO]もITセクターに分類されているのです。

ITセクターはさらに「ITサービス」と「ソフトウエア」に分かれる

ITセクターのソフトウエア&サービスという産業グループは「ITサービス」と「ソフトウエア」という産業に分かれています。「ITサービス」で時価総額が最も大きいのがアクセンチュア[ACN]で、IBM[IBM]を大幅に上回っています。

今回は「ITサービス」に分類されるアクセンチュア、コグニザント・テクノロジー・ソリューションズ[CTSH]、ガートナー[IT]、クラウドフレア[NET]に加え、資本財セクターに分類されているもののITサービスを提供するオートマチック・データ・プロセッシング[ADP]をご紹介します。

アクセンチュア[ACN]、コンサルティングサービス大手

ITを活用したソリューションを提供

アクセンチュアはコンサルティングサービスを手掛ける企業です。120を超える国・地域で事業を展開し、従業員数は75万人超。主な顧客は企業や政府機関で、コンサルティングの内容次第となりますが、経営効率化に向けてITを活用したソリューションを提供しています。

セグメントは、コンサルティング部門とマネッジド・サービス部門に分かれており、2023年8月期の売上高はコンサルティングが前年比1.4%減の336億1300万ドル、マネッジド・サービスが10.8%増の304億9900万ドルです。全体の売上高が4.1%増の641億1200万ドル、純利益は0.1%減の68億7200万ドルで、売上比率はコンサルティングが52.4%、マネッジド・サービスが47.6%です。

プレーヤーが乱立するDX市場は有望な領域

コンサルティング部門は、クライアントの企業や政府機関などのパフォーマンス向上を実現するためのプランや具体策を提案します。コンサルティングの対象になるのは戦略、経営、テクノロジーなどの分野で、技術統合のコンサルティングも提供します。

主な手段となるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進で、クラウドやデータ、人工知能(AI)の利用を促し、業務の適正化やコスト削減を目指します。最終的にはテクノロジーを利用した売上高の拡大にまで踏み込むようです。

DXはコンサルティング会社にとって有望な領域で、企業の経営改善策のメニューにDXがあるのであれば、受注競争の面でも有利です。というのもDX市場にはコンサルティング会社だけでなく、システム会社やソフトウエア開発会社、オフィス機器メーカーなどが参入。業界ごとに棲み分けを決める境界線が薄れ、さまざまなプレーヤーによる乱戦が続いているためです。

人材争奪のために企業買収にも積極的

乱戦を勝ち抜くのに重要になるのはやはり人材です。効果的なDXを実現できるエンジニアが極めて重要で、人材の争奪戦も起きていると伝わります。一定数のエンジニアを自社の傘下に収めるためにソフトウエアの開発会社を買収するといったケースもしばしば起きているようです。

アクセンチュアも積極的に企業買収に乗り出しており、2023年8月期には25件の買収に計25億ドルを投じています。このほか研究開発に約13億ドル、人材開発に11億ドルを投じるなど技術面で優位に立つための投資に積極的です。

顧客の業務を外部受託するマネッジド・サービス部門

マネッジド・サービス部門は、かつてアウトソーシング事業と呼ばれており、顧客の業務の一部を外部受託するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)などで構成されます。コールセンターなどを含むBPOビジネスは企業のDXにとっても重要なパーツで、顧客と接触するBPOビジネスで取得したデータを生かし、DXを推進する手法が採用されています。

アクセンチュアのマネッジド・サービス部門ではデリバリーセンターと呼ぶ拠点を通じて業務を請け負います。BPOの世界拠点を巡っては英語を話せる人が多いインドとフィリピンが競っていましたが、アクセンチュアもこの両国に大規模な拠点を置いています。冒頭に従業員数75万人超と記しましたが、国別で従業員数が最も多いのがインド、次いでフィリピンになっています。

顧客が属するセクター別で売上高が多いのは通信・メディア・テクノロジー、金融サービス、ヘルスケア、消費財、化学、天然資源などです。

地域別の売上比率は北米が47.3%、欧州・中東・アフリカ(EMEA)が33.2%、成長市場が19.5%です。日本は成長市場に分類されており、2023年8月期には日本が成長市場の増収を牽引しています。

【図表1】アクセンチュア[ACN]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は8月
【図表2】アクセンチュア[ACN]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

オートマチック・データ・プロセッシング[ADP]、HCMソリューションを提供

140ヶ国以上で事業展開、顧客数は110万人以上

オートマチック・データ・プロセッシングは企業向けに人的資本管理(HCM)ソリューションを提供しています。企業の人材開発という管理上の難題をビジネス上のアドバンテージに変えるソリューションで支持されているようです。

実際、140を超える国・地域で事業を展開し、顧客数は110万以上と膨大です。業績は2024年6月期決算の売上高が前年比6.6%増の192億300万ドル、純利益が10.0%増の37億5200万ドルで、9年連続の増収増益と着実に成長しています。

サービスは、HCMソリューション、HROソリューション、グローバル・ソリューションに大別されます。このうち膨大な顧客を抱えるのがHCMソリューションです。

給与や人事管理などに必要なソリューションをクラウドで

HCMソリューションでは、従業員の採用から退職までのあらゆる段階で必要なソリューションをクラウドで提供し、企業を支援します。主に従業員が50人未満の企業に提供しているのが「RUN Powered by ADP」というソフトウエアのプラットフォームです。給与管理、人事管理、税務コンプライアンス管理、労働力管理、労働者の医療保険プランの管理などの機能が備わっており、提供中の企業は89万社を超えています。

従業員が50-999人の中堅企業に加え、従業員1,000人以上の大企業を対象とするプラットフォームが「ADP Workforce Now」です。北米の企業向けに従業員管理をアシストする機能を持ち、約8万5,000社が利用しています。

このほか米国の大企業向けのソリューションに「ADP Vantage HCM」があります。人事管理、諸手当・福利厚生管理、給与管理、勤怠管理、人材管理といった機能を統合したソリューションです。

オートマチック・データ・プロセッシングはHCMソリューションの中でも給与管理に強みを持ちます。実際に米国では顧客企業からの委託を受け、2,600万人以上の労働者に対して賃金を支払っています。実に米国の労働者の6人に1人がオートマチック・データ・プロセッシングを通じて給与を得ているのです。

企業の人事業務を軽減するHROソリューション

HROソリューションのHROはHuman Resources Outsourcingの略で、人事業務の外部委託を指します。このうち着実に成長しているのが「プロの使用者組織(PEO)」と呼ばれる事業モデルです。顧客企業とオートマチック・データ・プロセッシングが、顧客企業の従業員を共同雇用する形態を取り、人事業務の責務を分担する仕組みです。中小企業や中堅企業が主要対象で、企業はPEOを通じて人事業務の一部を外部に丸投げし、負担を軽減することが可能です。

HROソリューションではこのほか、大企業の給与管理を代行する総合アウトソーシング・サービスに加え、人材採用を支援する採用プロセス・アウトソーシング・サービスも提供しています。

グローバル・ソリューションでは、多国籍企業などを対象に米国外での人事業務を支援します。テクノロジーを活用し、人事や給与プロセスといった複雑な業務を行う顧客をサポートします。

【図表3】オートマチック・データ・プロセッシング[ADP]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は6月
【図表4】オートマチック・データ・プロセッシング[ADP]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

コグニザント・テクノロジー[CTSH]、多様なサービスを提供

先端技術に積極的に投資し顧客のニーズに対応

コグニザント・テクノロジー・ソリューションズは、顧客である企業に最新のデジタルテクノロジーを活用することを促し、企業が競争上の優位性を確保できるよう支援します。デジタルソリューション、アプリケーション開発、コンサルティング、システム統合、アプリケーションの保守、ビジネスプロセス、オートメーションなど多様なサービスを提供しています。

人工知能(AI)、クラウド、データ刷新、オートメーション、デジタル技術、モノのインターネット(IoT)などの分野に積極的に投資し、顧客企業のニーズに対応します。サービスを利用する企業側の具体的なメリットとして、主力事業でのデータ活用を通じた顧客体験の向上、新たな収益源の開拓、オペレーションの自動化、テクロノジーを活用するライバル企業に対するディフェンス力の強化、コストの削減などを挙げています。

5部門それぞれのセグメントで企業を支援

顧客企業に提供するサービスとソリューションは5つの項目に分かれています。コアテクノロジー&インサイト部門では、クラウドやデータ、IoTの活用を目指す企業を支援し、パフォーマンスの向上とイノベーションの迅速化を後押しします。

企業プラットフォーム部門では、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)をアシストします。営業活動の最前線であるフロントオフィスはもちろん、バックオフィスの業務も対象です。顧客体験、顧客関係管理(CRM)、人的資本管理(HCM)、サプライチェーン管理、企業資源管理(ERP)、財務管理などのデジタル化を推進します。

業界ソリューション部門は、業界レベルで違いを作り出すという戦略に沿って2023年に創設しました。業界特有のプロダクトやサービスを提供し、顧客企業の生産性向上やイノベーションの迅速化を促します。

直感的オペレーション&オートメーション部門は、AIを駆使した自動化とビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)が骨子になります。一方、ソフトウエア&プラットフォーム部門では、先端のビジネスソフトウエアの提供やアプリケーションの改良などを手掛けています。

サービスを提供する業界・地域

同社は主に、金融サービス、ヘルスサイエンス、小売り、製造、旅行・観光、通信・メディア・技術などの業界にソリューションを提供しています。2023年12月期の地域別売上比率は北米が73.7%、欧州(大陸)が9.9%、英国が9.7%、その他が6.7%です。

また、同社は北米を除けば欧州での売上比率が高く、一段の知名度向上に向けて欧州で人気の高い自動車レース、フォーミュラーワン(F1)にスポンサーとして参加しています。英国のアストンマーティン・アラムコ・F1チームのパートナーです。

【図表5】コグニザント・テクノロジー[CTSH]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表6】コグニザント・テクノロジー[CTSH]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

ガートナー[IT]、1万5,000社の顧客を抱える調査会社

売上の8割以上を占めるリサーチ部門

ガートナーは米国の大手調査会社で、約90ヶ国・地域に1万5,000社の顧客を抱えています。セグメントは、リサーチ部門、コンファレンス部門、コンサルティング部門に分かれています。

売上高が最も大きいのがリサーチ部門です。2023年12月期には前年比6.1%増の48億8700万ドルとなり、売上高全体に占める割合は82.7%に達しました。さまざまな業界の調査を定額課金ベースで顧客に提供するビジネスです。定額課金ベースの収入がリサーチ部門の売上高の92%を占めています。

サービスへの加入者は調査コンテンツやデータ、指標などをオンデマンド方式でアクセスすることができる上、世界中に分散する専門調査員2,500人のネットワークに直接アクセスすることも可能です。

エキスパートによる対話や交流をセッティング

コンファレンス部門は2023年12月期の売上高が前年比29.8%増の5億500万ドルで、売上高全体に占める割合は8.6%です。特定分野で活躍するゲストの講演や国内外のエキスパートによる実践的な提言、双方向型の対話セッション、エキスパートとの直接対話、同業者などとの交流会などで構成されます。2023年の実績では47回におよぶ対面型のカンファレンスを開催し、合わせて7万5,500人が出席しています。

コンサルティング部門は2023年12月期の売上高が前年比6.8%増の5億1500万ドルで、売上高全体に占める割合は8.6%です。この部門では、ITに関する経験豊富なガートナーのコンサルタントが企業のIT責任者や幹部を対象に、テクノロジーを駆使した戦略の策定やテクノロジー投資の最適化などに関するコンサルティングサービスを提供しています。

【図表7】ガートナー[IT]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表8】ガートナー[IT]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)

クラウドフレア[NET]、ウェブサイトの表示速度を改善

クラウドフレアは「より良いインターネット環境の構築」を使命に掲げる企業です。ハーバード・ビジネススクールで知り合ったマシュー・プリンス最高経営責任者(CEO)やミシェル・ザトリン最高執行責任者(COO)らが2009年に立ち上げました。

ウェブサイトやアプリケーション向けのプロダクトが主力で、サイバー攻撃からウェブサイトなどを守る高度なセキュリティーと同時に表示速度のスピードアップを実現します。

セキュリティーではウェブ・アプリケーション・ファイヤーウオール(WAF)をはじめ、ボットを検出して管理するボット・マネジメント、DDoS攻撃への防御といった機能を装備します。一方、コンテンツ・デリバリーの加速やネットのルーティング(経路)の改善などでウェブサイトの表示速度を高め、パフォーマンスを向上させます。

高度なセキュリティーとウェブサイトのパフォーマンス向上というウェブサイトを使う企業にとって不可欠なサービスを提供するだけに利用者は着実に増えています。2023年末時点の有料顧客数は前年比17.1%増の18万9,791に上り、このうち年間売上高が10万ドルを超える顧客数は35.0%増の2,756に伸びています。

【図表9】クラウドフレア[NET]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表10】クラウドフレア[NET]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月17日時点)
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