ロシアと北朝鮮が新軍事条約:「同盟」に温度差も

07-01 作者admin

事実上の「同盟」復活

ロシアの前身であるソ連と北朝鮮は冷戦時代の1961年、有事には互いに自動的に参戦する条項を盛り込んだ「友好協力相互援助条約」を結んでいた。この軍事同盟条約は、冷戦が終結し、ソ連も崩壊した後の1996年に失効し、相互軍事支援を取り除いた「友好善隣協力条約」(2000年)に衣替えしてこれまでに至っていた。

北朝鮮が公表した新条約の全文によると、「(ロシア、北朝鮮の)いずれかが武力侵攻された場合、遅滞なくあらゆる手段で軍事的援助を提供する」(4条)と明記されている。金正恩氏も「両国関係を同盟という新たな高い水準に引き上げた」(6月19日、プーチン氏との首脳共同発表)と、手放しで歓迎して見せたことから、冷戦時代の同盟を事実上復活させたものと世界に受け止められた。

プーチン氏と金正恩氏は昨年9月、ロシア極東部の先端宇宙基地で会談し、軍事的接近と連携を着々と進めてきた。ウクライナ侵略で手詰まり状態にあるロシアに北朝鮮が武器・弾薬を送り、見返りとしてロシアが北に石油製品などの物資や軍事技術を提供する図式が明白となりつつあった。

その背景には、両国の国際的孤立の深まりがある。プーチン氏は昨年3月、国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪容疑で逮捕状を発付されたのに加え、今年6月のイタリア先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、ロシアの凍結資産の運用益から年内に500億ドル(約7兆8500億円)をウクライナ支援に投入する枠組みが合意された。

また、北朝鮮も計11本の国連安保理決議で制裁を科されている上に、最近も「軍事偵察衛星打ち上げ」と銘打った大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に失敗を重ね、威信を失いかねない状況だ。新条約は、共に窮地に陥ったプーチン、金正恩両氏の思惑の結果といえる。

ロ朝に微妙な温度差も

ただ、新たな軍事同盟が安保理決議の明確な違反であり、国際社会の糾弾を避けられないことは、プーチン氏も承知している。首脳共同発表の場で、金正恩氏が「史上最も強力な条約」などと誇り、3回も「同盟」に言及したのに対し、プーチン氏はその後も含めて、一度も「同盟」とは言っていない(※1)

また、有事の相互支援に関する4条には、旧軍事同盟(「友好協力相互援助条約」)になかった「国連憲章第51条と両国の法に準じて」という条件が挿入されている。国内法に照らして「今回は参戦しない」との選択もあり得ることを意味し、旧条約の「自動参戦条項」に該当しないという解釈もある(※2)。ロシア側が新条約の条文を公表していないことと合わせれば、「同盟復活」に対する国際社会の非難を回避するために、プーチン氏が新条約を巡るロ朝の微妙な温度差をあえて放置した可能性もある。

国際社会への背信行為

にもかかわらず、新条約が東アジアだけでなく、欧州も含む世界の平和秩序に対する重大な懸念を呼び起こしたことはいうまでもない。第一に、北への軍事支援や物資・技術の提供は、安保理決議で繰り返し禁じられている。北の制裁破りを監視してきた安保理の「専門家パネル」も、ロシアの拒否権行使によって4月に廃止された。自動参戦か否かを問わず、安保理常任理事国であるロシアがこのような条約を結ぶのは、国連加盟国と国際社会に対する前例のない背信行為の積み重ねとしか言いようがない。

第二に、最も懸念されるのは、武器・弾薬の見返りにロシアの先進的な核・ミサイル関連技術が北朝鮮に供与されれば、日韓などの周辺諸国や米国の防衛と安全を直接的に脅かすことである。

韓国の尹錫悦大統領は新条約を「歴史の進歩に逆行する時代錯誤的行動」と強く非難し、対抗措置としてこれまで自粛してきたウクライナへの殺傷力のある武器支援を「検討する」と表明した。これに対し、プーチン氏は「大きな誤りだ」と非難するなどあわてて反応した。新条約がウクライナ情勢と朝鮮半島を同時に揺さぶるものであることを如実に示した。

問われる中国

新条約とロ朝への対抗措置として、米国の安全保障シンクタンク、「戦略国際問題研究所」(CSIS)は緊急レポートを発表し、(1)日米韓、フィリピンなどが一国への脅威を全体の脅威とみなす北大西洋条約機構(NATO)型の集団防衛枠組みを検討する、(2)日米欧がロシアと同様に、北朝鮮の海外資産を凍結し、北朝鮮による人権弾圧の賠償やウクライナ支援に資産を利用する、(3)中国への外交説得を通じて、ロ朝に対する直接・間接的支援をやめさせる──などの提言を公表している(※3)

これらのうちで、NATO型の集団防衛は日本の政治的制約などから実現が難しいとみられるが、北朝鮮の海外資産の差し押さえや凍結は即効性が高いといえる。金正恩氏らの隠し資産を探し出すのは容易ではないものの、日米欧の協調と連携を強化して取り組めば、不可能ではないだろう。

一方、新条約について、中国外務省は「2国間協力にはコメントしない」(20日)と否定も肯定もしていない。だが、ロ朝両国との微妙な距離感に加えて、朝鮮半島情勢の緊張や不安定化は中国にとっても決して好ましくないはずだ。何よりも、「責任ある大国」を目指す上で、ロ朝の軍事協力に同調するような外交があってはならない。

韓国と中国はプーチン氏訪朝の前日、外交・防衛高官による「外交・安全保障対話(2プラス2)」をソウルで開催し、中韓関係の改善や半島情勢を巡って話し合ったばかりだ。日米韓や欧州はこうした点も踏まえて、中国に対する説得をあらためて強化する必要がある。

(※1) ^ 6月22日07時05分、時事通信「ロ朝『同盟』に温度差 介入条項に解釈の余地」。

(※2) ^ 6月19日AP通信、“What’s known, and not known, about the partnership agreement signed by Russia and North Korea,” By Kim Tong-Hyung and Jim Heintz, AP, 2024/6/19

(※3) ^ “The New Russia-North Korea Security Alliance: Critical Questions,” by Victor Cha and Ellen Kim, CSIS, June 20, 2024.

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