【日本株】キャッシュレス関連銘柄/7月に新紙幣発行、その動向を読み解く

06-28 作者長谷部 翔太郎

日経平均は引き続き38,000~39,500円の狭いボックス圏での推移が続いています。3月までの急騰の日柄調整は着実に進んでおり、株価はそろそろ上放れるか下放れるか、の分水嶺に近づいてきているように感じます。

そのような中、先週の日銀政策決定会合では国債買い入れ減額方針などが明らかにされました。具体的な方法はまだ不明ですが、これは3月のマイナス金利政策解除に続く、追加的な引締めスタンスの発露ということになります。株式市場は現執行部の引締め姿勢が穏健なことをまずは好感する流れとなりましたが、このような一連の動きは要注意と言えるでしょう。

20年ぶりに新紙幣発行、期待される経済効果とは

さて、今回は「新紙幣とキャッシュレス」について採り上げたいと思います。7月3日、紙幣のデザインが20年ぶりに刷新されます。次なる紙幣のデザイン変更には、また20年程度を要すると考えれば、このテーマを採り上げるのはこれがおそらく最初で最後になるかもしれません。

今回の新紙幣では偽造防止に向けてさらなる仕掛けが用意される上、市中に蓄蔵されている「タンス預金」を再び流通させる(=お金を回す)といった効果が期待されています。これに加え、自動販売機やレジ、ATMなどのシステム改修によって、民間研究機関では1.6~2.3兆円もの経済効果が新紙幣発行で見込めるとの試算がなされているようです。

なお、新紙幣発行後も旧紙幣は問題なく使用することができます。使用不可能になるとの虚偽情報を利用した詐欺などには十分注意してください。ちなみに、現在も有効な(つまり使用可能な)紙幣は22券種あり、現行の4券種(1万円、5,000千円、2,000円、1,000円)を除いた18券種は既に発行停止となっています。今でも使える最も古い紙幣は、なんと明治18年発行の1円紙幣です。

新紙幣の経済効果とは裏腹に、押さえておきたいリスク要因

経済効果が期待される新紙幣ですが、私はこの見方に対してやや慎重なスタンスにあります。確かに自動販売機やレジ、ATMなどのシステム改修需要は発生するのでしょうが、おそらくそのコストは利用者に料金価格の引き上げという形で転嫁されるのではないかと想像するからです。

つまり、実質的な値上げです。先日発表された4月の実質賃金は前年比0.7%の減少と、25ケ月連続のマイナスとなりました。企業の賃上げ浸透から所定内賃金は約30年ぶりの高い伸びを記録したものの、物価上昇率も急ピッチの伸びが続いているのです。今後も電力料金の引き上げ影響が発現することを考えれば、実質賃金のマイナス成長はまだしばらくは続く可能性があります。

そのような中でシステム改修コストなどの売値転嫁が進めば、むしろ消費を冷やしかねないと懸念します。システム改修などにお金を使っても(それは確かに景気には好影響)、一方で可処分所得の低下から財布のヒモがより固いモノになってしまっては元も子もなくなってしまうということです。実質賃金がプラスの状態とは条件が明らかに異なるといえないでしょうか。これでは企業や小売店サイドも、やらなければならないと自覚しつつも、システム改修にはどうしても後ろ向きになってしまうのではと想像します。

実際のところ、2021年に発行された新500円貨は発行後3年経過していますが、未だに使えない自動販売機がかなり散見されます。500円貨と紙幣を同列に並べるのには無理があると思うものの、企業サイドの消極的な姿勢が垣間見えると受け止めています。

キャッシュレス化の動きが加速

そこで、注目するのがキャッシュレス関連です。キャッシュレス化に振り切ってしまえば、このような紙幣や硬貨の刷新に対応する負担は激減します。キャッシュ現物を取り扱う煩雑さやセキュリティを考えれば、むしろランニングコストを抑制できる可能性もあります。

かつて日本はキャッシュレスがなかなか浸透しない状況であったため、キャッシュ対応は必須でした。しかし、コロナ禍後はキャッシュレス決済が急速に浸透し始めており、新紙幣対応のコスト発生を契機に、キャッシュレス化を図る企業や小売店がさらに増えるのではないでしょうか。

経済産業省によると、キャッシュレス決済比率は2023年に39.3%までが上昇しています(2013年の決済比率は僅か15.3%でした)。キャッシュレス化がここまで浸透すれば、既に普及に向けての閾値を超え、普及がさらに加速するフェーズに入ってきていると考えても不思議ではありません。新紙幣がキャッシュレス化を加速するというのはやや皮肉な展開と言えるのかもしれません。

キャッシュレス化の中でも急成長のQRコード決済、注目の関連銘柄とは

そのキャッシュレス化において、急成長しているのがQRコード決済です。コロナ禍直前となる2019年以降、決済金額はなんと年率83.5%もの急拡大となっています(その次に伸びているのがクレジットカードで年率9.7%)。キャッシュレス比率がさらに上昇することになれば、それはQRコード決済が引き続き牽引する可能性が大きいのかもしれません。

そのような観点で今後注目の関連銘柄を考えると、QRコード決済でおよそ50%のシェアを有するPayPayを傘下に持つLINEヤフー(4689)、およそ26%のシェアを有する楽天ペイを傘下に持つ楽天グループ(4755)、また、決済手段の仕組みを提供しているGMOペイメントゲートウェイ(3769)も重要な関連銘柄ということができるでしょう。

さらには、Suicaを擁し非接触型電子マネー決済企業においてクレジットカードなどと連携させることで独自の経済圏構築を図る動きを見せている東日本旅客鉄道(9020)、WAONを擁するイオン(8267)、iDを擁する日本電信電話(NTT)(9432)などもまた、キャッシュレス化進展の中で注目されてくるのではと考えます。

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