神戸メリケンパークのシンボル「フィッシュダンス」 世界的名匠設計も老朽化で存亡の危機

09-19 作者admin

撤去するか改修するかが検討されているオブジェ「フィッシュダンス」=神戸市中央区

神戸の人気観光スポット「メリケンパーク」の一角にそびえる高さ約22メートルの鯉の巨大オブジェ「フィッシュダンス」。バブル期につくられたが40年近い年月を経て老朽化が進み、部品落下などの危険があるとして市が撤去を検討している。神戸市民からは「なくなると寂しい」との声が上がる一方、「残す必要もない」とするそっけない反応も。ただ、世界的に高い評価を受ける建築家のフランク・ゲーリー氏が設計した国内唯一の作品でもあり、専門家は「世界的な観光資源になる可能性がある」としている。

メリケンパークは、神戸港を望む市民や観光客の憩いの場。海辺から少し離れたメリケンパークの入り口付近にあるオブジェは鉄のチェーンと金網をつなぎ合わせ、陸に打ち上げられて勢いよく飛び跳ねたような躍動感あふれる巨大な鯉が表現されている。

夜になるとメッシュ状になったオブジェの内側からライトアップされ、その幻想的な光景を外国人観光客らがスマートフォンで撮影する姿がみられる。一方で、周辺を通りかかった神戸市垂水区の大学2年、吉永陽稀さん(19)は「なんかいるなあって感じ」と話した。

かつてはシルバー、今は赤さび

フィッシュダンスはバブル期の昭和62年、メリケンパークの竣工(しゅんこう)を記念して作られた。踊っている鯉をモチーフにゲーリー氏がデザインし、建築家の安藤忠雄氏が監修して製作。だが、かつてはシルバーに光り輝いた芸術作品も潮風にさらされ、今や表面の至るところに赤さびが発生している。

世界的建築家、フランク・ゲーリー氏が設計したオブジェ「フィッシュダンス」=神戸市中央区

オブジェを管理する神戸市は、さび対策として7度にわたって塗装を行ったが、平成26年を最後に行われていない。過去に市の外郭団体がペンキでシルバーからピンク色に塗り替え、建築家らから批判を浴びたこともあったという。

大地震が発生すれば倒壊する危険性もあるとして、市は対応を検討。今年7~8月、オブジェを撤去すべきか改修すべきかホームページ上で市民らの意見を募った。改修した場合、約8千万円の費用がかかると市は試算している。

市の担当者は「老朽化し、金網が落下するなどの危険性があるのは事実。市民の意見を踏まえ、将来を見据えた改修を行うか検討したい」と話した。

「世界的な観光資源に」

フィッシュダンスに対する市民の思いはさまざまだ。

長年、神戸市中央区に住んでいる男性(77)は「名所とまではいかないけど、できたころから知っている。きれいにして残してほしい」と訴える。

ただ、辛辣(しんらつ)な意見も少なくない。同市東灘区の会社員、杉原淳夫さん(40)は、人通りの多い道からだと建物に隠れ、「気づきにくい」と話す。同区の会社員、榊真由さん(24)は「はっきりいってフィッシュダンスに思い出や愛着はない。残す必要はないと思う」と手厳しい。

一方で、美術建築物に詳しい神戸大大学院工学研究科の末包(すえかね)伸吾教授(建築学)は「オブジェの価値は高く、世界的な観光資源になる可能性がある。今こそフィッシュダンスをPRする取り組みをすべきだ」と指摘する。

末包教授によると、ゲーリー氏は建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞など権威のある賞を総なめにし、「世界で最も活躍する建築家」だという。複雑な空間構成と斬新な外観で目を引く米ロサンゼルスの「ウォルト・ディズニー・コンサートホール」や、巨大なガラスの帆船のような仏パリの「フォンダシオン ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン財団美術館)」、船に似た印象的な外観で知られるスペインの観光名所「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」など、多くの独創的建築物を設計した。

フィッシュダンスは、そんなゲーリー氏が世界的評価を受ける前に、日本に唯一残した作品。隣にはとぐろを巻いた蛇をイメージした建物もあり、同氏が建築物のコンセプトとしていた「魚と蛇」のテイストが色濃い。作品としての価値は非常に高いという。

末包教授は倒壊への対応は急務としつつも、「神戸の観光資源になる価値を大いに秘めている。どういった建築物か、世界に積極的に発信することが必要だ」と指摘。その上で「効果的に発信すれば興味を持つ観光客は必ず出てくる。市民の理解や誇りにもつながる」と強調した。(西浦健登)

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