バフェット氏、2つのゴールデンルールを実践し現金の山の上に君臨
09-18 作者石原 順
ハリス氏当選に備える動きか?バークシャー副会長が自社株を売却
バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]の保険事業を担当する副会長アジット・ジェイン氏が、保有株の半分以上に相当するバークシャーのクラスA株を約1億3900万ドルで売却したことが明らかになった。9月11日に米SEC(米国証券取引委員会)に提出された書類によると、ジェイン氏は200株のクラスA株を1株、約69万ドルで売却。これによりジェイン氏のクラスA株の持ち分は166株と約半分に減少した。
日本経済新聞の9月14日付けの記事「バフェット氏側近の副会長、バークシャー持ち株大量売却」が報じているように、今回の売却理由は明らかになっておらず、市場では様々な見方が出ている。最初の反応は、ジェイン氏がバークシャーの成長に不安を抱いているのかという懸念だったが、この可能性は小さく、むしろ、バークシャー株が大きく値上がりしたタイミングで利益を確定しておこうという投資判断や遺産相続など個人資産運用への対応が背景にあると見られている。
また、11月の米大統領選で民主党のハリス副大統領が当選した場合に備えての節税対策という見方もある。ハリス氏が掲げる公約の中で、キャピタルゲイン課税を現行の最大20%から28%へ引き上げる方針が表明されている。加えて、1億ドル以上の投資資産を持つ富裕層の含み益にも25%を課税する方針が明らかになっている。
インド出身のジェイン氏は1986年にバークシャーに入社し、再保険業界への参入を主導した他、最近では傘下の自動車保険事業ガイコの再建を指揮した。バフェット氏は以前からジェイン氏を称賛しており、2017年の年次書簡「株主への手紙」の中でジェイン氏について次のように記している。
「アジットはバークシャーの株主のために何百億もの価値を生み出してきた。もし、もう1人のアジットがいたとして私と交換できるとしたら、躊躇しちゃダメだ。トレードしよう!」
バンク・オブ・アメリカ[BAC]株を売却、過去最高2800億ドルの現金保有額に
一方、8月末にめでたく94歳の誕生日を迎えたウォーレン・バフェット氏は、バンク・オブ・アメリカ[BAC]株の売却を引き続き進めている。
9月5日と10日にSECのサイトに公開された書類によると、9月3日から10日にかけて約2454万株のバンク・オブ・アメリカ株を売却し、額にすると9億8872万ドルに相当する。7月に売却を始めて以降、バークシャーが売却した株数は合計で1億7000万株余り、金額は72億ドル近くだ。なお、バークシャーは依然としてバンク・オブ・アメリカ株の11%強、約8億5800万株を保有する筆頭株主である。
9月11日付けのロイターの記事「BofA、バークシャーによる株売却でバフェット氏に尋ねず=CEO」によると、バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEO(最高経営責任者)は、ニューヨークで開かれた投資家向け会合で10日、バフェット氏について「当社にとって重要な投資家であり、当社を安定させた」と称賛した上で、バンク・オブ・アメリカ株を減らした動きについて、「率直に言ってわれわれが彼に尋ねることはできないので、彼が具体的に何をしているのかは分からない」と述べ、バフェット氏には何も尋ねていないことを明らかにした。
バフェット氏は以前、「我々の事業の大部分は、今年は昨年より低い収益を報告するだろう」と語り、米国経済の「信じられないような時期」が終わりつつあると述べた。それを裏付けるかのように、株式の売越し傾向が続いており、現金ポジションが積み上がっている。
6月末時点の現金保有残高(現預金と米短期債の保有額を合計した額)は2769億ドルと、前期(2024年第1四半期末は1890億ドル)から約46%増え、過去最高を更新した。これまでのバンク・オブ・アメリカ株の売却分を加味すると、2841億ドルに拡大すると推計される。
時価総額1兆ドルに達したバークシャー・ハサウェイ、バフェット氏の名言とは?
バークシャー・ハサウェイの時価総額が8月28日、初めて1兆ドルに達した。時価総額が1兆ドルの大台に乗せるのは米企業では、アップル[AAPL]やエヌビディア[NVDA]、アマゾン・ドットコム[AMZN]などのマグニフィセント7に次ぐ8社目で、非ハイテク銘柄としては初となる。
InvestopediaとYahoo Financeのデータを元にヴィジュアル・キャピタリストが8月28日にまとめた記事「Berkshire is the 8th U.S. Company to Reach a $1T Valuation(バークシャーは企業価値が1兆ドルに達した8社目の米国企業)によると、バークシャーが1980年3月16日に上場してから1兆ドル企業になるまでにかかった日数は16,237日、約44年5ヶ月13日だったということだ。
日本経済新聞の8月29日付けの記事「NY株ハイライト バークシャー初の時価1兆ドル『守りの姿勢』に評価」は、アップルなど保有株の売却を進めた「守りの姿勢」に市場の評価は大きく高まっていると指摘。バークシャーは投資会社という印象が強いが、実際は保険や鉄道、食品など幅広い事業を抱える巨大な複合企業であり、景気への警戒感を強めた投資家が資金を振り向けた可能性があると伝えている。
ジェイン氏がバークシャー株を売却した理由もバークシャーがバンク・オブ・アメリカ株の株式を売却した理由も推測することしかできない。さらには保有するアップル株の約半分を処分したことも同様だ。8月末にバークシャーの時価総額が1兆ドルを超えたタイミングであったことを考えると、市場において十分に評価されていると考えたことが理由のひとつと言えるだろう。
投資に関するバフェット氏の名言は数多く伝えられているが、2つのシンプルなゴールデンルールがある。それは「第1ルール、損しないこと。第2ルール、第1ルールを忘れるな」だ。