ザラザラとした少年期 佐藤厚志氏の芥川賞受賞後第一作『常盤団地の魔人』

09-08 作者admin

『常盤団地の魔人』

『常盤団地の魔人』佐藤厚志著(新潮社・1870円)

団地に住む小学校3年生の少年を主人公にした長編小説。彼は小児喘息のせいで2年生までは特別支援学級で過ごした。思春期の直前。性を意識する少し前。年齢の違う少年同士が争ったり、つるんだりする中で、少しずつ自我に目覚めていく。

まず、印象的なのは文章が整っていて、読みやすいことだ。センテンス(一文)が短く、登場人物一人一人の行動や表情をはっきりとした輪郭で描いている。読者は主人公の視点で、小さな起伏の続く日常を過ごすことになる。

似たような5階建ての団地4棟が並んでいる。もともとは転入してくるサラリーマン向けの雇用促進住宅だった。今は老朽化して、家賃も安い。高齢者が多く、あまり裕福ではない人が多そうだ。

住んでいるのは転勤族や近くの工場で働く人たち。外国人も多い。住民はお互いをすべて知っているわけではないのに、4棟を合わせて、一つの共同体のような感覚を共有していて、団地内の平和を維持し、よそ者は警戒する。

大人の自警団もいる。管理人も目を光らせている。少年たちの世界にも、勢力を誇示する一団があり、主人公はそれにあこがれている。そのメンバーである兄。暴力的な父親。主人公は孤独だが、妙に芯の強いところが面白い。

集団による計画的な盗み。秘密の池。扱いに困る捨て犬。ここには安易な友情など存在しない。少年同士の関係は冷めている。人生を教えてくれる教師も、心ひかれる年上のマドンナも登場しない。

主人公は厳しい環境の中で、ザラザラとした思いを抱き続ける。そんな中で成長していく。それがいい。

タイトルの「魔人」。主人公はその存在を感じるのだが、目には見えない。共同体の秩序を自警団や管理人とは違う次元で維持している者にも見える。末尾近くで主人公はその正体に想像が至る。この不思議な存在を設定することで、少年の日々が思わぬ柔らかさで包まれているようにも思える。芥川賞受賞後第一作。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。
©著作権2009-2023デイリー東京      お問い合わせください   SiteMap