難解な前衛書道の見方を手ほどき 「groupf 2024展vol.7 東京」が人気 目黒で9月8日まで

09-08 作者admin

佐那さんの作品「INZM」=令和6年9月6日、目黒区美術館区民ギャラリー(植木由樹子撮影)

女流書家6人がそれぞれ自由な表現を求めて切磋琢磨するグループ展「groupf 2024展vol.7 東京~6人の共通点は『書』」(産経新聞社後援)が東京都の目黒区美術館区民ギャラリーで開催中だ。とかく「難解だから」と敬遠されがちな前衛書道だが、本展は6人が前衛書道の見方や創作の意図を気軽にその場で解説してくれるのが最大の売り。書道ファンから一般の来場者まで、知的好奇心をくすぐる人気企画となっている。8日まで。(高橋天地)

自由な空気感

企画者は、第41回産経国際書展で産経国際書会理事長賞を受賞した佐那さん(東京都)のほか、志を同じくする書道仲間、井上空咲さん(大阪府)、植木由樹子さん(広島県)、三好尚美さん(広島県)、一甘さん(東京都)、斎藤知里さん(京都府)。

来場者に今回のf展のテーマである目黒のサンマを描いてもらい、壁に飾るワークショップも人気だ=令和6年9月6日、目黒区美術館区民ギャラリー(高橋天地撮影)

会場には墨象、かな、漢字、篆刻(てんこく)など計34点が展示。芸術表現の面白さや奥深さを体感でき、明るく、楽しく、自由な空気感がみなぎっている。ちなみに「groupf」 は、Free 、Frank、Fusion、Future、Feel、Funの頭文字を充てたものだ。

佐那さんの作品「INZM」は出色の出来映え。佐那さんは「今年1月の能登半島地震で被災した仲間たちを思い制作した」といい、よく紙面を見ると、海と地震を司る神、ポセイドンやテティスが浮かび上がった。他にも出品者一押しの作品を紹介し、会場の雰囲気を見てみたい。

会場の壁に〝揮毫〟

会場に入ると、いきなり視界に飛び込んでくるのが、植木さんの「鳥歌花舞」だ。墨が画仙紙を飛び出し、壁面にも墨の表現の続きが描かれているのだ。

植木由樹子さんと「鳥歌花舞」。壁に墨で書いた?=令和6年9月6日、目黒区美術館区民ギャラリー(高橋天地撮影)

美術館がよく首を縦に振ったものだと思いきや、植木さんは「墨の色に近いマスキングテープを使って、鑑賞者を驚かそうという遊び心だった」とカラクリを解説してくれた。遠くから見ると、確かにマスキングテープは墨で描いた線にしか見えない。

植木さんが作品で目指したのは「書の線質もあり、絵的でマットな線質もある墨象」という。鳥、歌、花、舞の字もさりげなく作品に溶け込むように書かれている。植木さんはマスキングテープを手でちぎり、壁にも貼ることで、鳥が歌い花が舞う世界観を緻密かつ伸びやかに作り上げていった。

絵画と思いきや・・・

三好尚美さんと「必至」=令和6年9月6日、東京・目黒区美術館区民ギャラリー(高橋天地撮影)

三好さんの作品「必至」も存在感たっぷりの〝絵画〟だ。1990(平成2)年から制作を続けてきた「life」シリーズの作品(2018年)。三好さんは子育てや介護など自身の人生の1コマを、人体を表す巨大な墨象で表現してきた。

この作品は三好さんの父親をイメージしたもので、三好さんが両親の介護にあたった時期に執筆した。作品の下部分には篆書の漢字「子」などを盛り込んだ。「執筆時に思いついた親に対する気持ちです。子の字を入れたのは父が子煩悩だったからです」。

タイトルの「必至」には、仏教の諸行無常の教えに通じる響きがあるが、これは三好さんの人生観でもあるようだ。「必ず人は死ぬ。死ぬまで一生懸命に生きる。そんな姿を見てきました。作品に通底する思いです」

「街」の字を重ねて再現したマンハッタンの夜景

会場の一番奥で〝キラキラと〟異彩を放つのが井上空咲さんの「街ーManhattan」だ。井上さんが今年7月に訪れた米ニューヨーク・マンハッタンの幻想的な夜の街の姿を書作品として再現したものだ。

井上空咲さんと「街ーManhattan」=令和6年9月6日、東京・目黒区美術館区民ギャラリー(高橋天地撮影)

「ニューヨークの言葉では言い表せない独特な空気感を出したくて、街という漢字をすべて重ねて、表現しました」と井上さん。普段カラーを使った作品を書くことも多いが、墨の色が目立つようにしていた。ただ、この作品については「多色、多国籍、多様性の感じを出したくて、アクリル絵の具のビビッドな色を直接絞り出すように使いました」と説明。その上に濃墨と淡墨で「街」の字を重ねていったという。

また、「見ていただく方には驚きも与えたいから」と、筆を使わずに厚紙の側面を使って、紙に擦り付けていくように描いたのも特徴。遊び心が満載だ。

横にすると違う絵に・・・

一甘さんの縦作品「飛ぶ」にも独特な味わいがある。縦作品ではまさに鷲が絶壁から飛び立とうとするイメージを表現したものだが、横にすると、別の作品になってしまう。天へ聳え立つ雪山そのものが現れるのだ。一甘さんは「全体を俯瞰して、見えてきたものがその作品の正解や真実になる」と指摘した。

着想を得たのは、スキーヤーとして人生を謳歌した祖母の姿だ。1979年に欧州アルプス最高峰、モンブランの氷河を飛ぶように滑り降りたというエピソードや写真が創作意欲を掻き立てた。壁が白であることから紺地に金色の墨汁を使い、段ボールで塗って仕上げた。「段ボールは墨の吸収もいいし、かすれをうまく出せる」と勧める。

一甘さんと「飛ぶ」=令和6年9月6日、東京・目黒区美術館区民ギャラリー(高橋天地撮影)

呉昌碩の臨書が醸す効能

たくさんの前衛書道の作品の中でひっそりと咲く〝花〟が斎藤知里さんの臨書作品「書於愛日廬(あいじつろにしょす)」だ。

斎藤さんは「清朝最後の文人」といわれ、書、水墨画、篆刻で大きな業績を残した呉昌碩の漢詩作品(出典不明)を題材に選び、全集を参考に執筆した。作品は春や秋の植物を題材に季節感を瑞々しく切り取ったものだという。

斎藤知里さんと呉昌碩の臨書作品「愛於愛日廬」=令和6年9月6日、目黒区美術館区民ギャラリー(高橋天地撮影)

呉昌碩の篆書や隷書の筆致の素晴らしさは言うに及ばず、斎藤さんは書道についてなんでもこなしまう彼の自由な精神と風流さ、季節感を捉える確かな目に惹かれるという。

「クラシカルな作品ですが、呉昌碩生誕180年の節目を迎えたこともあり、今回のgroupf 2024展に絶対に出そうと思った」

前衛書道と呉昌碩の古典作品が化学反応することで、双方の素晴らしさがかえって際立つ形となっている。

問い合わせ

午前10時~午後6時、最終日は午後4時まで。入場無料。問い合わせは佐那さん090・1079・9734。

「産経国際書会」WEBサイト

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