「食道と大腸にがんがあります」。えっ私ががん?　その4日後の令和5年7月15日、秋田市は大雨による大水害に見舞われ、うちの旅館の1階全部が水浸しになった。その翌日から復旧作業と予約客への連絡に忙殺されながらの治療の打ち合わせが続き、大腸は手術、食道は放射線と抗がん剤治療を選択した。

水害でいつ営業を再開できるか途方にくれたが、同業者の若者たちが連日駆けつけてくれた。屈強のスポーツ選手を連れてきた方もいた。おいっ子はトラックで水に浸かってダメになったものを集積場まで運んでくれた。みんなが私に前を向く力を与えてくれた。おかげさまで8月末には復旧し通常営業に戻ることができた。

10月に大腸の手術で入院。その後食道の放射線治療、11月と1月に抗がん剤治療で入院した。病院のベッドで水害のことを思い出し、駆けつけてくれた同業者やおいっ子、お見舞いや手伝いに来てくれた多くの人たちに手を合わせていた。私が不在の旅館は妻と娘が頑張ってくれた。

水害と病気のおかげで人の親切、思いやりのありがたさを痛感できた。他人に対して前より優しくなった自分がいる。皆さんありがとう。本当にありがとう。

安田高之（70）　秋田市