7月のニューヨーク金先物価格の方向性を決めそうなコアPCE価格指数

06-28 作者亀井 幸一郎

先週の動き:週末の6月PMI速報値で上げ幅をすべて失ったニューヨーク金先物価格

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週足で反落した。地味な動きながらも総じて買いが先行する流れが続き、6月21日の取引時間中に2,382.60ドルと2週間ぶりの高値を付けた。しかし、その後発表された6月の米PMI(購買担当者景気指数)速報値が、市場予想を上回り、利下げ観測が後退し、長期金利が急伸すると急反落した。前日までの2営業日で水準を40ドル切り上げていたが、上げ幅をすべて削り、週末の取引を2,331.20ドルで終えた。週足は前週比17.90ドル、0.76%安となった。

週央の6月19日が奴隷解放記念日(ジューンティーンス)の祭日だったことから、前半はやや取引量も落ちた。また、前週に高まったフランスの政情不安にまつわる「リスクオフ」ムードは週末を挟んで後退し、週初には落ち着いた。欧州株式市場で下げが目立っていたフランス株は下げ止まり、「質への逃避」の米国債買いも一巡し、利回りは上昇傾向になった。

NY金は、発表される米経済指標に応じて強弱を繰り返す市場の利下げ観測に沿って上下した。足元で堅調さを維持する米経済だが、総じてインフレは鈍化、経済は減速傾向とのコンセンサス(共通認識)の下でNY金は買い優勢の流れとなっていた。

6月18日に発表された5月の米小売売上高が前月比0.1%増と、市場予想の0.3%増を下回ったことに加え、4月分、3月分ともに下方修正されたことは利下げ観測を強めた。プラスからマイナスに下方修正された4月分と今回の5月の内容からは4~6月期入り後も経済活動が低調だった可能性が示唆された。米10年債利回りは4.227%と2月中旬以来4ヶ月ぶりの低水準で取引を終え、金市場は買いが先行した。

ジューンティーンスの祭日明けの6月20日に発表された週次ベースの失業保険新規申請件数は、23万8000件と10ヶ月ぶりの高水準だった。さらに失業保険の継続受給者数(6月8日終了週)も182万8000人と7週連続の増加となり、NY金は2週間ぶりの高値(2369.00ドル)で終了した。翌6月21日はNYの早朝に一時2,382.60ドルまで買われたものの、前述したS&Pグローバル発表の6月PMI速報値が、景気の先行きに強気の内容となったことから一転して、売りが膨らみ、それまでの上げ幅を失った。

週後半に向け水準を切り上げたものの6月21日の下げで、いわゆる「行って来い」状態となった。先週のNY金のレンジは、2,320.20~2.382.60ドルと拡大したが、これは想定通りで、予想レンジを2,325~2,385ドルと広めに取っていた。ただし、週末の引値は2,370ドル程度を想定していた。

一方、国内金価格は、対米ドルでの円安傾向を受けNY金の上昇をそのまま映すことになった。6月21日の国内金価格の終値は1万2095円と、終値ベースで5月22日以来の高値となった。週足は前週末比319円、2.7%高となった。レンジは1万1727~1万2113円とNY金同様に拡大した。想定レンジを1万1680~1万1980円としていたが、円安を受け下限上限ともに60~120円上振れた。

ただし、日本時間6月21日21時30分発表の米6月PMI速報値を受け、米ドル円相場が大きく変動。一時159.87円と、4月下旬以来およそ2ヶ月ぶりの円安・ドル高水準を付けた。介入警戒はあるものの、切り上げた水準を維持して終了。ドル建て価格の値下がり分を円安が相殺する形で、6月21日の国内金夜間取引は1万1946円で終了した。なお、米国財務省は6月20日、半期ごとに公表する外国為替政策報告書で日本を1年ぶりに「監視リスト」に加えた。これで追加介入が難しくなったとの見方もある。

先週末ニューヨーク金先物価格の下げ、1ヶ月前に同様の急落

週末6月21日にそこまでの上げ幅をすべて失ったNY金だが、それは約1ヶ月前、5月23日の下げ相場の再現だった。この日も、S&Pグローバルが5月PMI速報値を発表。結果は予想より上振れしたため、市場の利下げ観測は後退、NY金は売られ1日で2.3%、55.70ドルもの下げとなった。したがって、先週6月21日の相場展開については、一定の予見があった。仮に6月PMI速報値が上振れした場合、NY金は下げに転じ、その程度により下げ幅も拡大することが想定できた。しかし、より広範囲をカバーするISM(サプライマネジメント協会)景況指数の5月の製造業50ポイント割れから、S&Pの6月PMIも鈍化傾向を示すものと読んでいた。この点で7月初めに発表されるISMの6月製造業および非製造業景況指数が注目される。

中央銀行金準備に関する調査 約3割が1年内に買い意向

金市場の話題では、6月18日、国際的な金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC、本部ロンドン)が中央銀行担当者へのアンケート調査「中央銀行ゴールドリザーブリポート」を公表した。実施期間は2024年2月19日~4月30日。回答した70の中央銀行の29%が、今後12ヶ月間に金準備を増やす意向を示した。2018年にこの調査を開始して以来最も高い水準としている。

外貨準備に占める米ドルの比率は徐々に低下するとの見立てが多い。米ドルが総準備資産に占める割合が5年後に低下しているとの見解を持つ回答者の割合は、2022年の42%から2023年に55%、そして今回は62%に上昇した。一方、5年後に金準備が増加しているとの見方は、2022年46%、2023年62%、2024年69%となっている。

今週の見通し:6月28日のコアPCEデフレーターに注目 ニューヨーク金先物価格は2,325~2,385ドル、国内金価格は1万1900~1万2190円を想定

今週は月末恒例のインフレ指標の発表が6月28日に控える。米連邦準備制度理事会(FRB)は、個人消費支出(PCE)・所得統計の中の価格指数(デフレーター)で食品とエネルギーを除いたコアデフレーターに注目していることで知られる。基調的なインフレをより正確に反映するとされることが理由だ。市場予想では、5月は0.1%上昇にとどまる見通しで、前年同月比では2.6%上昇が見込まれる。そうなると2021年3月以来最も小幅にとどまることになる。6月13日に発表された5月の米生産者物価指数(PPI)は予想外の低下となったが、PPIの項目でコアPCEデフレーターの算出に使われるいくつかのカテゴリーが前月比で低下していたことから、市場予想に沿った内容を見込んでいる。今週のNY金には上下双方の手掛かり材料となる。

FRB高官の発言機会もいくつか予定されている。なお、6月27日にはバイデン大統領とトランプ前大統領によるTV討論会が予定されている。前回2020年のTV討論は事前ルールを無視するトランプ候補の発言にバイデン候補も対抗したことで、仁義なき討論会となった経緯がある。今回は厳格なルールの下行われるとされるが、どうなるのであろうか。米国政治の分断は地政学リスクの範疇であり、金市場の関心事でもある。

今週のレンジをNY金は2,325~2,385ドルと先週の逆バージョンで週末に上昇を読んでいる。対して国内金価格は1万1900~1万2190円を想定している。コアPCEデフレーターの結果が7月の方向を決めそうだ。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券
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