【日本株】値がさ株の株式分割が相次ぐ理由とは?

03-14 作者和島 英樹

任天堂やファーストリテイリングなど。相次ぐ値がさ株の株式分割

株価の絶対値が高い、いわゆる値がさ株の株式分割の発表が相次いでいる。2022年9月末割当でゲーム世界大手の任天堂(7974)が1株を10株にする株式分割(1対10)を行ったのを始め、2023年2月末には日本の上場企業で1番株価が高いファストファッション世界大手のファーストリテイリング(9983)が1対3の株式分割を実施した。

さらにディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド(4661)、FA(工場自動化)関連のファナック(6954)、半導体シリコンウエハーなどを扱う信越化学工業(4063)などが3月末割当で大幅株式分割に進むことを発表している。

ファナックは株式分割を行うのが1986年以来37年ぶり、信越化学工業は27年ぶりなど久々の分割が多い。2022年実施の任天堂も31年ぶりの分割だった。

【図表1】3月期末割当で大幅株式分割を予定している主な企業
出所:筆者作成

株式分割が増加傾向にある2つの主な理由

東京証券取引所ではかねてから最低投資単位を50万円未満にするよう要請してきたが、実効性には乏しかったのが実情である。しかし、ここに来てにわかに増加傾向にある背景には、大きく分けて2つの理由が挙げられる。

まず、政府などが所得倍増計画を推進する過程で値がさ企業に「圧力」をかけたこと、そして、もう1つは2024年1月からスタートする新NISA(少額投資非課税制度)に向けて企業が投資家に株式を買ってもらいやすくするための政策が考えられる。

東京証券取引所は個人が投資しやすい環境を整備していくために、望ましい投資単位の水準を「5万円以上、50万円未満」と定めている。

50万円以上の上場企業については投資単位の引き下げを検討するよう、要請を行ってきた経緯がある。ただ、これまで効果が出ていたとは言い難い状況だった。その理由として、投資の最低単位を引き下げると企業にとって好ましくない株主が増加する懸念がある他、事務手続きが煩雑になることなどが考えられる。

値がさ株の株式分割を巡っては、政府などからの「圧力」があったとの見方がある。岸田文雄首相が「資産所得倍増プラン」を策定し、貯蓄から投資への流れを重視。一般投資家に手が届きにくい値がさ株をけん制したとの見方だ。

「新しいNISA」も踏まえた株式分割の施策

ここで、2022年10月14日に開催された金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」(第21回)を振り返ってみたい。

金融制度や資本市場などの協議や諮問が行われる会合だが、議事録では「大多数の上場企業はこの範囲(筆者注・50万円未満)での投資が可能となっている状況です。しかしながら、投資単位が高い水準のままの企業も依然存在しております」と指摘。関係者よると、この場で企業名は伏せられたものの、「高株価ランキング」が資料として配布されたという。

【図表2】値がさ株ランキング(3月9日現在)株価2万円以上

出所:筆者作成
(※)3月期末の株式分割を発表済み

また、東証はその直後に、投資単位が50万円以上の上場企業の代表者に対して株式分割の実施検討を要請。ここでも投資単位が100万円以上の38社のリストも公表した。

その一方、値がさ企業の株式分割は2024年にスタートする新しいNISA(少額投資非課税制度)をにらんだものとの見方も少なくない。

新NISAでは成長投資枠(現一般NISA)に毎年240万円を上限に非課税で投資することができる。しかも、非課税期間は「無期限」となる。つみたてNISAを含めた生涯投資枠の上限は1800万円(成長投資枠の上限は1200万円)に拡充される。現行の一般NISA枠は年120万円で、合計600万円。しかも、売却すれば枠は消える。長期投資を継続できる環境が整う。

このように、個別株に投資できる枠が広がるということは、個人投資家に自社の株式に投資してもらえるチャンスになる。信越化学工業は株式分割の目的として、発表資料で「新NISA制度が発足することも踏まえ、株式の分割によって個人投資家の皆様に投資していただきやすい環境を整え、投資家層の拡大を図ることを目的としています」と明記している。

いずれにしても、今後、株価1万円以上(最低投資金額100万円以上)のような値がさ株に、株式分割を実施する企業が増加する可能性が高い。値がさ株は収益性が高いからこそ、株価が高いという側面がある。個人投資家にとって、投資する優良株が増える可能性が高まることはメリットとなるのではないだろうか。

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